新たな境地を見せ、克明に“今”を刻む充実作『ANTHEM』市原ひかり

新たな境地を見せ、克明に“今”を刻む充実作『ANTHEM』市原ひかり

黄金色に輝くアルバムジャケット、そして力強いアルバムタイトルに作品への意気込みと自信が明確に現れている。日本ジャズシーンの中でも確かな実力と人気を兼ね備えたトランペッター、市原ひかりが「Days of Delight」からリリースした『ANTHEM』がそのアルバムだ。

市原はトランペットだけでなく近年はヴォーカルにも積極的に取り組み、ライブでも頻繁に披露しているだけでなく、2019年にはロサンゼルスでの録音で、ナタリー・コールとの共演でも知られるピアニスト、ジョシュ・ネルソンらとヴォーカルアルバム『Sings & Plays』を発表。高い評価を得たのは記憶に新しい。

今回「Days of Delight」からは初のリーダー作リリースという事で自身のレギュラーカルテット、しかも全曲市原の楽曲によるアルバムとなった。

左より、宮川純、市原ひかり、横山和明、清水昭好

市原の楽曲を的確に捉え、より磨き上げるバンドメンバーは宮川純(ピアノ)、清水昭好(ベース)、横山和明(ドラムス)。すでに7〜8年活動しているレギュラーバンドだからこそ、市原の紡ぐサウンドの機微を丁寧に受け止め、それぞれの表現に落とし込む。より普段着の、いつものライブハウスで聴けるようなリアルな市原のサウンドがアルバムとして記録されている。

表題曲の“Anthem”では横山の刻むセカンドラインのリズムが地盤をしっかりと支えながら、市原の抑制の効いたトランペット、宮川のしなやかなピアノが力強いメッセージを発信する。“The Thinker”や“CLC”などでは清水の鋭気に満ちた生々しいベースが楽曲の芯をより確かなものにしており、特に“CLC”での彼のベースソロは秀逸だ。バラードナンバー“He’ll Know”での市原のたおやかな音色はじわじわと胸に沁みてくる。それ以外の楽曲も個性豊かで聴きごたえがあり、市原およびバンドの魅力が凝縮されている。

市原にとっての10作目のリーダー作となる本作は、トランペット奏者として、そして1人のジャズミュージシャンとしての彼女の歴史を具現化した作品だと思う。そして、現時点での“リアル”を刻み込んで、さらに次のステップへ羽ばたこうとする市原のジャズの物語は、これからも鮮やかに続いていくことだろう。

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