豪腕ギタリストが紡ぎ出す、やさしいアメリカンロック ザック・ワイルド “Book of Shadows”

豪腕ギタリストが紡ぎ出す、やさしいアメリカンロック ザック・ワイルド “Book of Shadows”

先日、動画配信サイトで胸を熱くするような動画が公開されていた。

1990年代のヘヴィメタルシーンを象徴するかのような2人が、レッド・ツェッペリンの名曲「Rock & Roll」をカバーしているではないか。ギタリストは、長きにわたってオジー・オズボーン・バンドで活躍しているザック・ワイルド。ボーカルは、元スキッド・ロウのセバスチャン・バックである。動画は1987年のもので、それぞれが輝かしいキャリアをスタートさせる前の、いわゆる無名時代のプライベートなものだという。

しかしながら、ザック・ワイルドの傍若無人なギタープレイと、セバスチャン・バックの原曲を凌駕する容赦のないシャウトは、その後のスター性を裏付けるには十分なパフォーマンスである。レスポール愛用者であるザックが、テレキャスターを掻き鳴らしているのは、ジミー・ペイジ フリークとしての拘りなのだろうか?田舎のヤンキーのようなスーツの着こなしも、プライベートライブ感を煽っていて、お宝映像としてはプレミアムな内容だ。


私がザック・ワイルドというギタリストを認識したのは、オジー・オズボーンの”NO MORE TEARS”(1991年発表)というレコードでの、ヴォーカルを食ってしまうかのようなギタープレイからである。

ザックは、メタル界の重鎮であるオジー・オズボーン・バンドのギタリストに大抜擢されキャリアをスタートさせた。持ち前の”ワイルド”なプレイスタイルとギターのテクニックで、瞬く間に各ギター誌の表紙を飾り、トップギタリストの仲間入りを果たしたのだ。

ザックサウンドの特徴は、ギブソンレスポールとEMGピックアップの組み合わせから生まれる、粒子の細かい歪み成分に、コーラスのウネりを加えた唯一無二のもの。プレイスタイルにおいては、高速で弾きだすペンタトニックスケールと、ギターの雄叫びのようなピッキングハーモニクスがザックの武器であり専売特許である。

超高速で独特な”ペンタトニックスケール奏法”を解説する教則ビデオも発売されており、一通り目を通した事はあるが「ザックのようにマッチョじゃないとこういう弾き方は無理なんだな」と自己完結して正しく挫折した。

余談ではあるが、見た目とは裏腹に、指のストレッチ方法から、日頃の練習フォームまで丁寧に説明してくれるザックの人柄は、同じく速弾きの王者であるイングヴェイ・マルムスティーンの「俺についてこい!」的なオラオラ教則ビデオとは対極にあったのが可笑しかった。

1994年、オジーの活動が休止に入ったことをきっかけに、自身のルーツであるサザンロックとハードロックを融合させた、男気と熱量満点のバンド”プライド&グローリー”を始動する。一躍、時の人となったギタリストのサイドプロジェクトとして、鳴り物入りでリリースされた感はあったが、ギターキッズの間ではかなりの反響があり、独立起業としては上々の滑り出しだったのではないだろうか。

そこで初披露となったヴォーカルとしての技量と、魅力的なソングライティングのセンスが《ギタリスト》という殻を見事に打ち破った。アーティストとしての成長を遂げた彼は、1996年にザック・ワイルド名義のソロ作「Book of Shadows」という名盤を生み出す。

1曲目の”Between Heaven and Hell”は、乾いたアコースティックギターのフレーズに、ミドルテンポのドラムと埃っぽさを感じるハープの音色が心地よく絡んでいく。そこにイイ感じに肩の力が抜けたザックの歌声が聴こえてくると、少しホッとする感情さえ湧いてくる。とてもナチュラルで、古き良きアメリカの音楽は、懐が深く心を解放してくれるようだ。

若き天才ギタリストの、ある意味で奇抜なイントロダクションは、激しいギターサウンドと、テクニカルなフレーズを期待していた私に、良い意味での肩透かしをくらわせてくれた。

少しダークサイドを匂わせる”Sold My Soul”では、お待ちかねの歪んだギターが顔を出す。キッズがイメージするザック・ワイルドから放たれる激しいギターソロが、ストリングスと相まって、楽曲のシリアスな印象を深めている。

3曲目の”Road Back Home”は、ザックによるピアノの弾語りからスタートし、文字どおり語りかけてくるような歌声が徐々に熱量を上げ、バンドサウンドにシフトしていく。サビの ザラり と歪んだコードストロークが鳴ると、一気に光が差してくるようなとてもポジティブなパワーを感じる。

酒で焼けたであろう枯れたハイトーンと、ピアノと歪んだギターは、どこまでも力強い。エンディングでも、ザックならではのギターソロを弾き倒し。一瞬、変化球かと思わせたイントロからは想像がつかない展開となっている。

歌うようなベースラインなど、シングル用かと思わせるほどしっかりと作り込まれた楽曲は、随所にザック節が散りばめられており、名曲と言うに相応しい。カントリー調のカラッとした印象の”Way Beyond Empty”では、静と動を巧く使い分け、伸び伸びとしたボーカルを聴かせてくれる。アコースティックギターによって紡ぎ出されるソロプレイは、このレコードのハイライトとも言えるだろう。一方で”Dead as Yesterday”で聴かせるもの悲しげなアルペジオはどこまでも美しく、思わず回想に浸ってしまう。

今作中、唯一 バンドインでスタートする”1,000,000 Miles Away”は、満を持してメタリックなザック・ワイルドが登場する。ウネリを伴った重厚なベースラインがボトムを支え、重心の低い楽曲は、声色を巧みに使い分けるザックの怪しいボーカルラインを際立たせる。そしてなによりもオジーの影響を色濃く感じさせた。


バンドの一員としてでは出せない魅力を惜しみなく出し切る《ソロアルバム》のあるべき姿は、ザック・ワイルドのキャリアを覆し、彼のルーツを映し出す。

屈強なギターマンが紡ぎだす表情豊かな11の音色を、ギターキッズ以外にもぜひお勧めしたい。

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