秋の訪れと聴きたい 志村正彦が遺した名曲たち

秋の訪れと聴きたい 志村正彦が遺した名曲たち

暑さも和らいできて、夏の間は敬遠していた釣りに出かける機会が増えてきた。夕まずめの河川敷で、どこからともなく漂ってくる金木犀の香りと秋の気配に、ある歌が脳内再生される。

フジファブリックの「赤黄色の金木犀」という楽曲をご存知だろうか。

志村正彦という人間の世界観と独特な歌いまわしは、こんな季節にピッタリだなと思いながら水辺の浮子に視線をおとした。

志村正彦が亡くなって今年で11年目になるそうだが、彼の遺していった楽曲は今もなお地元の人々に親しまれていた。

生まれ故郷である山梨県富士吉田市では、彼の誕生日と命日に、親しかった人や全国各地のファンが地元のライブバーに集いフジファブリックの楽曲を演奏する。私もそうなのだが、亡くなってから志村正彦の存在を知った人も少なくないようで、地元のライブバーのマスターもそのうちの一人だそう。

そこでは、いわゆるフォーク世代の諸先輩方と若いファン達が入り混じり、フジファブリックの曲を一生懸命にコピーして披露していた。そんな世代も境遇をもこえたアットホームな空間にホッコリしたのを思い出す。

その中でみんながよく演奏するものに「茜色の夕日」という楽曲がある。志村正彦が地元富士吉田市から上京して最初に書きあげたと言われる歌詞からは、失恋、独り立ちを連想させる当時の想いと葛藤が汲みとれた。

哀愁のある歌声から放たれる言葉のひとつひとつを徐々に自分と重ねていく。

そこからサビの“君の小さなその目から、大粒の涙が溢れてきたんだ”という一節を浴びせられると目に涙を浮かべてしまうファンは多い。会場の過半数は泣く。すべてを解き放ってくれる歌詞に、おじさんでさえもウルッときてしまうほどだ。

そんな十代の志村正彦を歌った名曲は、期間限定ではあるが富士吉田市の夕刻を知らせるチャイムとなって、今でも地元の人たちに親しまれている。

チャイムつながりでもう一曲。2008年発表の3rdアルバム『TEENAGER』に収録されている「若者のすべて」も、今年の夏の夕刻を告げるチャイムに選ばれたそうだ。

こちらは著名なアーティスト達からもカヴァーされているので、耳にしたことがある人も多いかもしれない。“真夏のピークが去った”という歌い出しや、“最後の花火に〜”といったサビから、夏から秋への季節の移りかわりを感じさせてくれる。

美しくも力強いピアノのリードのせいか、感傷的な曲というよりもポジティブで、次に向かってグッと後押ししてくれるような印象を受ける。

思わず口ずさんでしまうメロディからも、志村正彦の才能を改めて感じさせた。

これから紅葉も深まり、河口湖をはじめとする山梨方面への散策は最高の季節となるだろう。志村正彦が遺した名曲を思いながら、彼の地元富士吉田市を訪ねるのも良いかもしれない。

その際は、彼も食べたであろう”吉田のうどん”もぜひ食べてみてほしい。関西派、関東派にも属さない、コシの強い具だくさんのうどんは、そこでしか味わえない。

古民家風な店舗が多く、旅の気分を盛り上げてくれるだろう。

そして、富士吉田市のコンパクトな街並みから見上げる富士山に、当時の彼と自身を重ねてみてはどうだろうか。

コラムカテゴリの最新記事