タペストリーのごとく織り込まれた音の結晶 『FACES』東かおる/西山瞳

タペストリーのごとく織り込まれた音の結晶 『FACES』東かおる/西山瞳

目を瞑り、耳をそばだてていると、柔らかい陽射しを全身に浴びる気持ち良さに似た、生命力に満ちた清らかな音色が心の隅々まで行き届いていく。ボーカリストの東かおると、ピアニストの西山瞳の共作によるアルバム、『FACES』を聴いている時に、ふつふつと込み上げてきた感情だ。

そんな想いが込み上げてくる作品に出会う事はあまりないが、この作品には自然とそれを感じた。

東かおるは伝統的なジャズボーカルのスタイルでも活躍しているが、ラージ・アンサンブルとの競演等、既存のジャズボーカルの枠にとらわれない活動を展開し、“声の表現”を追求してきた。

一時期はニューヨークで研鑽を積み、現在は関西を中心に活動、後進の指導にも積極的に参画している。

ピアノの西山瞳は魅力的なオリジナル楽曲を次々と生み出し、独自の世界観を確立。これまでリリースしてきたアルバムはそれぞれ高い評価を得ている。また近年ではヘヴィ・メタルの楽曲をジャズのフィールドで解釈する「NHORHM」での活動も多方面で話題を呼んでいる。

様々な表現を探求する2人は度々共演を重ね、2013年には『Travels』(2013年)を発表。今回の『FACES』も『Travels』同様、橋爪亮督(テナー&ソプラノサックス)、市野元彦(ギター)、西嶋徹(ベース)を迎え、世界観をさらに成熟させている。

西山の楽曲に東が歌詞をつけ、楽曲によってはボーカルというよりも「Voice」として、西山のピアノや他の楽器陣が生み出すサウンドに東の声が溶け込んでいく。

ボーカルと楽器を、リスナーはそれぞれ“別々”のものとして向き合う事があるかもしれないが、本作では、そういった型にはまった聴き方に捉われずに耳を傾けてほしい。

“White Cloud Mountain Minnow”でバンドが生み出す暖かい響き。東のVoiceがふわりと歌い出し、西山の奏でる軽やかな旋律に乗り、東と西嶋の織り成す音が心地良い“Manouche”。印象的なメロディと叙情的なピアノに惹きつけられる“Pescadores”など、各人の高いポテンシャルによって、精緻なタペストリーのような、味わい深い色彩に満ちた作品となっている。

様々な事で世界が揺れ動く中で、このアルバムは日々の中で生まれる、平穏のひと時に優しく寄り添い、いたわるような、そんな力を秘めている、とも感じた。

聴けば聴くほど心に馴染んでいくのは、そんな力があるからかもしれない。

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