私がエリック・ジョンソンのアルバム『ヴィーナス・アイル』に出会ったのは全くの偶然だった。CDショップで色々見ていたら ピンクと紫の背景に白い羽を付けた女性の天使が空中に浮かんでいる美しいCDジャケットが目に止まったのだ。
そして帯には「ギターマジック」の文字。ギタープレイを研究していた私には「これは買うべきアルバムだ!」とピンと来たのだった。
その時はエリック・ジョンソンの事は全く知らなかった私。しかし、これは運命的な出会いだった、ちょうど永遠の伴侶との出会いのように。
家に帰り、一曲目のタイトル曲ヴィーナス・アイル(ヴィーナスの島)を聴いたとき、その素晴らしいギタープレイに涙が溢れてきた。勿論、曲を聴いて感動のあまり涙したことは何回か有るが、ギターのアドリブプレイで泣いたのは生まれて初めての経験。それほど素晴らしかったのだ。
エリック・ジョンソンの楽曲の構成は彼独自のヴォイシングを施したコードと単音による、主旋律を巧みに組み合わせたリズムギター、それをバックにスリリングでかつ流れるようなギターソロにあると言えるだろう。
コードブックに載っているようなコードではなく、普通とは一味違ったコードを使用することで曲に奥行きと透明感を出している。それが良く分かる曲は4曲目の「S.R.V.」である。
リズムギターにフェンダーのストラトキャスターを使用し、その枯れたサウンドが同じテキサス出身の今は無き友、ブルースギタリストのスティーブ・レイ・ボーンに捧げられている。( S.R.V.はスティーブの名の略であり、スティーブの愛用のギターはストラトキャスターだ)
彼の実力の凄さは、セッション・ギタリストとしてキャット・スティーブンス、クリストファー・クロス、そしてキャロル・キングなどそうそうたるスターミュージシャンに参加している事でもわかる。彼のソロ・プレイの虜になった人たちの何と多い事か。
彼のソロ・プレイでは、私の知る限りすべてギター・エフェクターのファズ・フェイスを使用している。ファズ・フェイスと言えばエリック・ジョンソンと代名詞になっているくらいだ。
彼の持つ独特の洗練されたフレーズは、ブルースのフレーズを弾いても泥臭くならずとても上品。マイルドにドライブする甘美なまでの音色を持つソロ・プレイは絶品といえるだろう。確かに速弾きする箇所などは指運に任せて弾いているが、他のところはどれも口づさめるメロディーを醸し出している。
私も沢山のギタリストを聴いてきた。有名なところでは、スティーブ・ヴァイ、ジョージ・リンチ、ポール・ギルバート、ジョー・サトリアーニ等、しかし、彼らも素晴らしいのだが、エリック・ジョンソンは別格のギタリストなのだ。テクニック的にどうのこうのと言うより根本的に何かが違っている。
勿論、彼の独特のフレージングに帰するところも有るだろうが、一番の違いは彼の音楽には「常に喜びが有る」という点ではないだろうか。
彼の音楽には悲壮感とか暗さというものを感じさせない何かが有る。これは彼の天賦の才能だろうが、このポジティブなマインドが彼の音楽に反映されているのなら、なまじコピーしても彼のように弾ける訳がない。
このアルバム『ヴィーナス・アイル』では、ポピュラー・ミュージックと上手く結びつけ、ギターを弾かない人でも十分楽しめる楽曲を展開している。そう、彼は正しくミュージシャンズ・ミュージシャンなのだ。
もし誰かが私に「一番好きなギタリストは誰?」と聞いたなら何の迷いもなくこう答えるだろう「エリック・ジョンソンです。」と。