バラードアルバムの「新しいスタンダード」 「PLAYS BALLADS」河村英樹

バラードアルバムの「新しいスタンダード」 「PLAYS BALLADS」河村英樹

 時には静かに、腰を据えてゆっくり音と向き合う時間が必要だと思う。慌ただしい日常から開放され、誰にも邪魔されずに自分の好きな音に包まれる、そんな時間。今回紹介するテナーサックス奏者、河村英樹「PLAYS BALLADS」はそんな時間に打ってつけの1枚だ。 

河村英樹は神戸を拠点に全国的に活動を展開している。ジャズテナーの王道を往く力強さと深い情感を湛えた音色に心酔し、熱烈に支持するファンは多い。豊富なキャリアを重ねて2017年にリリースした1stアルバム「LIVE」はその名の通りのライブ録音、B3オルガン、ギター、ドラムスとの迫力ある勇壮なサウンドは各方面から高い評価を受けた。

続くアルバムで河村が選んだフォーマットはピアノとのデュオによるバラード集。河村の長年の構想の1つがいよいよ現実の物となった。パートナーには繊細で柔和なタッチ、創造性溢れるサウンドを奏でる木畑晴哉を迎えた。

再生ボタンを押すと早速、まるで眼前で演奏されているような音像に耳が反応するだろう。ミュージシャンの息吹がしっかり捉えられた音の良さが明確に伝わってくる。収録楽曲は長きに渡り愛されてきた、ジャズファンなら必ずや耳にした事のあるスタンダード達。その名曲達を一つ一つの音に目一杯の想いを込めて、新たな命を吹き込んでいく河村、美しい旋律でさらに引き立てる木畑の二重奏は、一曲終わるごとに聴き手の心に深く刻まれていく。数多くの経験、それは音楽経験だけでなく人生経験も重ねたからこそ生まれる奥深さが克明に音に乗っているからだろう。

 木畑の見事なイントロに導かれて、河村が雄弁に歌う“The Nearness of You”、ジョニー・マンデルの生み出した名曲、“The Shadow of Your Smile”、“A Time for Love”も2人の卓越した演奏で一層魅力的に響いている。他の曲も同様に真摯に音に向かい合う演奏に胸を打たれる。ラストの“For All We Know”を聴き終えた時には言葉にできない心の充足感と共に優しい気持ちに満たされる。

 バラードアルバムは世に数あれど、本作のように素晴らしい演奏と音質の良さを高い次元で兼ね備えた作品にはそうそうお目にかかれない。冒頭記したように、ゆっくり音と向き合い、心を落ち着かせたい時の「新しいスタンダード」として、あなたのコレクションに加える事を強くお薦めしたい。

河村英樹 公式webサイト

http://hidekikawamura.com/

ディスクレビューカテゴリの最新記事