Thundercat 『It Is What It Is』 とは何だったのか

Thundercat 『It Is What It Is』 とは何だったのか

3rdアルバム『Drunk』以来、約3年ぶりとなる新作『 It Is What It Is 』をリリースしたサンダーキャット。豪華アーティストが再び集結したこの1枚について、ジャズライター小島良太と、The Beat Goes On編集長である猫山がそれぞれ語った。

さりげない優しさに救われる Thundercat 「It is What It Is」—小島良太

安らぐ。情報量はとても多いのに、それぞれの音にちゃんと意味があって無駄がない。いや、もしかしたらそんな事を彼は意識しているわけではないかもしれないけれど。サンダーキャットが才能を張り巡らし、構築する世界はひたすら優しさに溢れている。延々とリピートしても聴き疲れする事がなく、どこから聴いても楽しめるのも現代のリスニング環境にフィットしている。

 前作「Drunk」も充分に2010年代以降を代表する作品だったが、今回の作品は前作からの周囲の期待に気負っている所を決して感じさせない。ジャコ・パストリアスやスタンリー・クラークといった、彼が愛し尊敬するベーシスト達からのルーツを感じさせながらも、出てくるサウンドはサンダーキャット以外の何者でもない。

「ジャズ」、「ソウル」、「ヒップホップ」といったジャンル分けは、時に「ジャンルの壁」としてリスナーを分断してしまう事がある。しかし、サンダーキャットはそういったジャンルの壁を軽やかに飛び越え、手を結ばせて我々に送り届けてくれるのだ。“自分の音楽のアンテナに引っかかっていないから”とちょっと敬遠している人がいるとしたら、それはとても勿体ない事だと思う。

 嗚呼、是非リアルな場で彼の発する音を浴びて恍惚に浸りたい。そんな我々リスナーと同じ場所で音を共有したいのはサンダーキャットだって、きっと同じはず、きっと。

小島良太の選ぶ、『 It Is What It Is 』の3曲

1.Dragonball Durag

彼の個性がよく現れた曲の世界観や歌詞に惹かれる。

普遍的なポップセンスと厚みのある高度なサウンドの融合が結実している。アルバムと共に確実に2020年を代表する1曲。PVを視聴すると切なさがさらに増すだろう。

2.Unrequited Love

サンダーキャットの巧みなベーステクニックを今さらあれこれ語るのも野暮な話だが、彼はそういったテクニカルな部分をひけらかすのではなく、曲に必要なピースとして溶け込ませる才能がズバ抜けている。

3.It Is What It Is

音楽シーン注目の的の1人であるペドロ・マルチンスのギターに絡むサンダーキャットの声は、いたってシンプルなのに次第にイマジネーションを広げていき、心地良い快感を生む。そして彼は盟友に向けて、静かに、意志を込めて呼びかけるのだ。自然で素直なメッセージがズシリと響く。

瞳の奥を覗くような1枚、と思う。—猫山 文子

サンダーキャットの新譜『It Is What It Is』を聴いた私は思わず、これを待っていたのだ、と震えた。誰かはこの作品を「地味だ」と言っていたけれど、それはきっと表現の、あるいはとらえ方の異なりで、きっとほんとうの意味で言えば……私たちはサンダーキャットの手中にいて、まるで外を流れゆく車窓からの眺めのように、するすると聴かされているのではないだろうか?彼の持ち前のセンスと、持ち前のバランス感覚によって。

今作は、サンダーキャットにしか出せない軽やかさと、サンダーキャットにしか出せない重さを兼ね備えている。まるで彼が語り掛けるように、そして私が瞳の奥を覗くように、うずまく愛や、喪失や、それらが繰り返される日々のことを思わされるのだ。

何より優れているのは、この作品に浮かぶ余白である。アルバムのラストに位置するP・マルチンスが参加したタイトル曲は、私たちにいくらかの余白を与えている。ある人はその余白に絵を描き、ある人はその余白に腰掛けるだろう。繊細なメロディーに、耳をすませながら。

猫山文子が選ぶ、『 It Is What It Is 』の3曲

1.I Love Louis Cole

理由は単純、私も同じ気持ちだから。という冗談はさておき、すばらしくストレートな1曲。ザ・Louis Coleと言わざるを得ないタイトなドラムがたまらない。駆け抜けていくメロディーラインが、まるで吹き抜ける風のようで。

2.How Sway

バカテク……とあっけにとられてしまうけれど、 転がるようなメロディーが楽しく心地よい1曲。ワクワクするのはなぜなのか、それはまるでゲームのメニュー画面で流れているような1曲だからだ、一人で結論を下したのであった。

3.Lost in Space / Great Scott / 22-26

この曲からはじまるのだから、名盤に決まっているじゃないと確信させられた1曲。決して派手じゃない、だけどある種の決意を感じさせるような、新たなフェーズへの誘い。ここから「Innersteller Love」への流れが素晴らしいのは言うまでもない。

ライタープロフィール

■小島良太

ジャズライター。ジャズフリーペーパー「VOYAGE」編集長。「ジャズ批評」や「JAZZ JAPAN」等にも寄稿中。

■猫山文子

The Beat Goes On編集長。ジャズやAOR、高度経済成長期に生まれたビル群が好き。「ENHANCE JP」や「Ashely」などにも寄稿するほか、小説やエッセイも。

ディスクレビューカテゴリの最新記事