心が通い合う瞬間を捉えた珠玉のデュオ 土岐英史&片倉真由子「After Dark」

心が通い合う瞬間を捉えた珠玉のデュオ 土岐英史&片倉真由子「After Dark」

アルトサックス奏者、土岐英史の名は日本のジャズ・フュージョンシーンだけでなく、山下達郎、竹内まりや等との共演から幅広い音楽ファンに知れ渡っている。70年代から音楽業界の第一線で活躍し続け、力強く艶やかな唯一無二の音色の信奉者はつとに多い。また後進の育成も積極的に行っている。

 彼が日本のジャズシーンに焦点を絞って上質な作品を発表し続けるレーベル、「Days of Delight」からデュオアルバムをリリースすると知った時は胸が躍った。同レーベルの記念すべき第1弾は土岐のレギュラークインテットでの演奏を収めた「Black Eyes」(2017年)で、ここ数年のバンドの成熟を詰め込んだ完成度の高い作品だった。

土岐がそれに続くアルバムとして満を持して発表した本作は、自身のレギュラークインテットのピアニストであり、土岐のジャズサウンドに今や欠かす事のできない片倉真由子とのデュオというのだから楽しみも倍増した。土岐と片倉は時折デュオでもライブを重ねていただけに、その成果がついに形となる事は両者のファンにとってこの上なく喜ばしい知らせだったに違いない。

片倉は土岐バンドでの活躍はもちろん、ニューヨークで活躍する北川潔や寺久保エレナ、国内でも伊藤君子、大山日出男、レイモンド ・マクモーリン等、ベテラン中堅若手問わず様々なミュージシャンから高い支持を受ける屈指のピアニスト。まさにファーストコールと呼ぶにふさわしい活躍ぶりだ。どのバンドでも、共演するミュージシャンの特性を深く理解して最上のパフォーマンスを引き出し、幾多の名演を残してきた。

 

 本作は世界的芸術家、岡本太郎のアトリエで収録。特に前もって収録曲を決めずにレコーディングに臨んだという。岡本太郎のアトリエという、ライブハウスやレコーディングスタジオでない空間だからこそ、二人の自然体の音が活き活きと広がる。アルバム冒頭からスタンダード中のスタンダード、“枯葉”を持ってくるあたりに確かな自信を感じるが、発せられる音を聴けば両者の表現の投影がしっかり記された熱演に感銘を受け、その自信も大いに頷けるだろう。

続く土岐の代表曲、アルバムタイトル曲でもある“After Dark”は片倉の研ぎ澄まされたピアノが巧みに道筋を作っていき、土岐のアルトが入ると瞬く間に心奪われる。息の合った、というより心が通い合ったという表現が当てはまる稀代の名演だと思う。“黒いオルフェ”や“Lover Man”など、これまで幾多のミュージシャンが披露してきた有名曲をこの2人にしか出せないサウンドで紡ぎ出していく。

 アルトサックスとピアノのデュオというとアート・ペッパーとジョージ・ケイブルスの素晴らしいコラボレーションが思い浮かぶが、そういったレジェンド達の作品と並び、本作が多くのリスナーに聴き継がれ、愛される事を願ってやまない。

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