マイルス・デイヴィスの名盤「カインド・オブ・ブルー」とは何か

マイルス・デイヴィスの名盤「カインド・オブ・ブルー」とは何か

マイルス・デイヴィスのアルバム「カインド・オブ・ブルー」を解説する事は、半ばタブー化されているらしい。1959年8月の発売から、世界中で累計1,000万枚を超えるセールスを成した、そして今もなお売れているこのモンスターアルバムには、どのような巧みな解説、コメントも陳腐なもののように感じられてしまうようだ。モダンジャズというカテゴリーが生み出した比類なきアート、その高度な純度ゆえに一切の雑音を寄せ付けないからだと言う。

更にこのアルバムを通して感じなければいけないことは、音楽に選ばれた人、瞬間があるのだということ、単に音を出す技術や才能だけでは、到達しえない境地が存在するということであろう。

1991年9月にこの世を去ったマイルスだが、生前は長きに渡り帝王の座に君臨していた。そんなマイルスも、若き日にチャーリー・パーカーのバンドでプレイしていた頃は、際立った存在ではなかったようだ。ビバップ全盛の中、他のメンバーの超絶技巧により、グングン押し出すアドリブプレイの嵐に、引け目を感じていた。

そんな中で緻密なアレンジと極力音を削ぎ取ったいわゆる「クールジャズ」を、アレンジャーギル・エバンスと共に作り出したのである。つまり、クールジャズはビバップのアンチテーゼとして生まれたわけだ。そしてこのことは、モードジャズ「カインド・オブ・ブルー」を知る前段階として、留意しておく必要があると思うのだが、それとも「カインド・オブ・ブルー」に関してはモードジャズの領域に位置するということ自体、陳腐なことなのだろうか?

とは言え、モードジャズとはどのようなスタイルの音楽なのか知っておくことが必要なのかもしれない。通常のジャズであれポップス、又はロックであれ必ずコード進行が存在する。簡単に説明すればコードとは和音の事で、ド・ミ・ソ ならCメジャーコード、ド・ファ・ラならFメジャーコード、そしてこれらのコードをつなげて曲を作っていくのである。

例えばジャズでよく使われるコード進行はDm7–G7–Em7–A7–Dm7–G7–Cmjar7であるが、それぞれのコードの和音構成に順じて使用できる音階があ理、プレーヤーはその音階を駆使してアドリブを展開していくわけである。(アベイラブル・ノート・スケールと言う)

このようなコード進行があるが故、曲の起承転結を作ることができ、感情の抑揚を刺激することができるのだが、モードジャズにはこのコード進行がない。つまり、コードによる起承転結がないのだ。

モードジャズは指定した一つのコードで使用可能なモード、西洋の古い教会音楽の音階を使用してプレーヤーは自由にアドリブを演奏するのだが、かなりの実力とフレーズのボキャブラリーがないと、すぐに飽きられてしまう。

このアルバムにおいて、マイルスは、まるでマチスの絵画のように無駄なものを削ぎ落した旋律を奏でている。しかし、決してスカスカな音ではなくそこには美しいハーモニーがある。これは巧みなアレンジの賜物だろう。

参加ミュージシャンはジョン・コルトレーン(t,sax)、キャノンボール・アダレイ(al,sax)、ポール・チェンバース(bass)、ジミー・コブハム(drums)、そしてウィントン・ケリーとビル・エヴァンスがピアノをプレイしている。

敢えてこのアルバムについてコメントを言うなら「心拍数に近いビートを背景に、ジャズの巨人たちが至福の時と空間に聴く者を引き込んでゆく。」と言う思いが湧き上がって来たのだが、どうかこの位でご勘弁願いたい。

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